あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

映画『青天の霹靂』感想(ほぼネタバレなし)

ざっくり言うと

「何のために生きるのか」について、タイムスリップと奇術の要素を絡め、分かりやすく描いた作品。監督が劇団ひとり(芸人)だから、という先入観で観ないのは勿体ない!

こんにちは、あるこじ(@arukoji_tb)です。

映画『青天の霹靂』の感想です。感想を書く上で映画の内容についても触れていますが、極力ネタバレしないようにしたつもりです。具体的には予告編の内容から得られる情報程度までは言及しています。

この映画の公開当時、妻に誘われて観に行った際に「劇団ひとりは好きだけど、映画かぁ……」という思いで映画館に出向いたのをよく覚えています(笑)

結果からすると、この予想は良い意味で裏切られました。面白く、そして心に響く映画でした。

以下、感想を書いていきます。なお、原作の小説は未読のため、そちらとの比較については言及していません。

概要

『青天の霹靂』は芸人の劇団ひとりさんが自身の小説を原作にした映画監督デビュー作です。

主人公の轟晴夫を大泉洋さんが演じています。その他、柴咲コウさんと他ならぬ劇団ひとりさん本人が主なキャストとして登場します。

主人公の轟晴夫は、場末のマジックバーで働く売れないマジシャンです。晴夫の母は晴夫が産まれてすぐに父の浮気に怒り晴夫を捨てて出て行き、それを伝えた父も晴夫が高校卒業後から消息不明のため、晴夫は天涯孤独の身です。

自身の境遇と、たまたま訪れた数々の連続する不幸に打ちのめされた晴夫でしたが、「青天の霹靂」によって40年前の浅草へとタイムスリップしてしまいます。そこで出会った二人の人間との出会いが、その後の晴夫を大きく変えていく事になります。

感想

悲劇と喜劇の境い目

物語の冒頭で晴夫は、惨めな境遇にある事が描写され、またその中で色々と不幸な目に遭ってしまいます。一つ一つはちょっとした悲しい出来事なのですが、それがまとめて押し寄せる事で晴夫の心は折れ、「俺って何のために生きているんだよ……」と絶望の気持ちを口にした所で晴夫はタイムスリップする事になります。

ところで、この数々の不幸のシーン、映画で取り上げられてみると悲劇的なのですが、もしこれがコントとして扱われていたら……と考えると、おそらく泣けるのではなく、その連鎖具合に最早笑えてすらくる状況です。

チャップリンの有名な言葉に

人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である

という物がありますね。

序盤のシーンを見ていると、物悲しくも何処か笑えてくる部分があるように私は感じました。そして、自分自身に起きる不幸な出来事も、実はそうやって笑い飛ばしてしまえる一瞬が、実はあるのではないだろうか? という気分にさせられました。

こんな感想を持ったのは、監督が他でも無い劇団ひとりさんだからかもしれませんね。彼が普段演出するドラマ仕立てのコントはこの逆で、おそらく実際に起きたら悲しかったり、惨めだったりすることが、コントであるという了解がある事で一転して笑えてくるのだという事を図らずも表している物がしばしばあるように感じます。

そんなメッセージがこの映画に込められているとは思いませんが、悲劇と喜劇の境い目は実はとても曖昧な物なのかもしれない、そんな風に感じました。

"単純"なタイムスリップ

最近のタイムスリップ物というと、未来において破滅する世界や、いずれ訪れる自身の不幸を見据え、それに対応するためにタイムスリップした状況を利用する未来改変がテーマの物が多いと感じます。そうした話の主人公らは目的を達するために、超えるべき困難、果たすべき目標を置いて行動します。

また、少し以前のタイムスリップ物だと、自身が過去に来てしまったが故に未来が変わってしまうことが予見でき、それを避けるために、タイムパラドックスに注意しながら立ち回るという物もありますね。

本作はどうかというと、未来改変にも、歴史の維持にも、どちらにも当てはまりません。主人公の晴夫がどう動くかというと、過去や未来がどうこうという事は考えず、これまでの惨めな境遇をリセットして生き直す、というスタンスを取ります。

これも広く言ってしまえば、自身の利害のためにタイムスリップを利用していると言えるのかもしれませんし、また、未来から来たメリットを一切享受していないかというと、そういう訳ではないんですが、晴夫が複雑な動機や行動意識を持っていないんですね。そこにある種の好感を感じました。

一から出直す。そのための舞台がたまたま過去だったという話なのです。晴夫にとって、過去は未来から来た事のメリットを最大限に生かす場所ではなかった。ただ、惨めな境遇の自分を誰も知らない世界だったんですね。

この良い意味での単純さ、タイムスリップを必要以上に自身のために利用していない潔さが良かったです。

もし自分自身が仮にタイムスリップしたとしても、そんな上手く立ち回れる気がしないという考えを自分が持っているから、晴夫が必要以上にタイムスリップを利用しない部分に、共感を感じるのかもしれません。

何のために生きるのか

誰もが一度は考えた事がある何のために生きるのかという普遍的な問い。この問いに対する答の一つが本作には込められています。

物語の終盤、主人公の晴夫と柴咲コウさん演じる花村悦子が、二人で会話するシーンでその答について語られるのですが、普段は映画館等ではあまり泣かない自分も、グッと来ました。「泣ける映画」という言い方はあまり好きではありませんが、事実泣きそうになりました。

このシーンでグッと来る要因の一つが、晴夫の境遇にあると思います。予告編でも語られている晴夫の強い気持ちとして

「ろくでもねえ親父がいて! 俺を置き去りにした母親がいて! そのせいで俺の人生惨めなんだよ! そうだろう!?」

というものがあります。自身の置かれた辛い境遇の中で、晴夫がこうした思いを抱えるのは至極当然の事に感じます。

そんな「何のために生きるのか」を見失った晴夫が、過去に来て過ごした時間の中で自身が生きる事の意味を理解し、自身を肯定する様に感動を覚えるのです。

加えて、晴夫が辿り着く答は、全員とは言いませんが、多くの人に共感できる内容だと思います。そのため、晴夫だけでなく自身も、生まれてきた事の意味を再確認させられる場となるんですね。それが、この作品で心が揺さぶられたと感想を残す人が多い理由なのだろうと思います。

全編を彩るマジック

本作中では多くのマジックが披露されます。マジックを披露するのは晴夫、つまりは演じるところの大泉洋さんである訳ですが、これが全てノースタントでCGも使っていないマジックであるというのを観終わってから知って、本当に驚きました。当時のインタビュー記事等を読むと、大泉洋さんがマジックを習得し、実際に演じる所で相当の苦労をした事が語られています。

マジックを見慣れている人ならネタがすぐに分かるのでしょうか? 私は分からないものばかりで、どれも自然なマジックに見えました。カメラもワンカットで撮られているため、カットの切り替わり部分の利用を疑う余地もありません。

本作はそもそも、劇団ひとりさんが「ペーパーローズ」というマジックを見た際に着想を得て、作られたという経緯があるそうです。マジックの部分に力が入れられているのも納得です。

このマジックが晴夫の置かれた状況とリンクしているのが良いんです。晴夫が場末のバーで見せるマジック、タイムスリップした直後のおっかなびっくりのマジック、浅草の劇場で大衆を相手にして笑いを取るマジック、そして大一番で堂々とした様子で見せるマジック……。

行われるマジックを通じて晴夫が、徐々に人を楽しませようとする気待ちや、自身の矜持を取り戻していく姿が気持ち良く、また格好良いと感じました。

特に、クライマックスの大舞台で晴夫がマジックを披露するシーンは、流れる音楽との相乗効果も相俟って、強く心を揺さぶられました。

まとめ

本作は劇団ひとりさんの初監督作品です。芸人が監督を務める映画作品というと敬遠される方も多いですが、本作は大変面白く、また感動できる内容でした。

タイムスリップ物ですが、いわゆる世界改変的なネタは特になく、主人公の晴夫が自身の生きる意味や自身を取り戻していくという部分に焦点が当てられます。

作中での大きなメッセージは、何のために人は生きるのか。それに対し、示される答は多くの人に共感が得られる物になっていると感じました。

以上、映画『青天の霹靂』の感想でした。

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