あるこじのよしなしごと

妻・息子2人(2014生:小麦アレ持ち/2019生)と四人で暮らしています。ボードゲーム、読んだ漫画・本、観た映画・テレビ、育児、その他日常等について綴っています。

漫画『笑ゥせぇるすまん』第7話「勇気は損気」感想

漫画『笑ゥせぇるすまん』第7話の感想です。

感想の性質上、展開やオチなどに多々言及することになるため、ネタバレ多数になります。ご注意下さい。
他方、あらすじの紹介が主眼ではないので、話の枝葉末節は記載しないつもりです。そのため、本記事を読むだけでは物語の内容は分からない可能性が高いことも、ご了承下さい。

第7話「勇気は損気」

お客様について

イラストレーターの熊井勇です。新聞のスクラップを趣味にしています。一般人が泥棒を捕まえたとか、人命救助したとか、そういうお手柄・武勇伝的な記事に憧れを抱いており、自分もそうした活躍をして目立ちたいという願望を持っています。

イラストレーターに必要なこと

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一方、熊井は本業のイラストレーターとしてはなかなか芽が出ない様子でした。熊井がお世話になっている雑誌の担当者曰く

君はちょっと面白い絵を描くし、パッと取り上げてもいいんだが、そうすると必然的に君自身を紹介せにゃならん。それにはあまりにも君自身が冴えなすぎるんだよ。

とのことでした。確かに熊井は地味な見た目をしていますね。

この「イラストレーターが売れるためには絵が上手いだけでなく本人の魅力も必要」という話ですが、同じような主張が別の短編でも登場します。

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ブラックユーモア短編集に収録されている作品『ヒゲ男』です。男が占い師から、同じような指摘をされ、ヒゲを伸ばすように言われています。

この自分自身を磨いたり変えたりすることがそのまま作品の良さや特徴付けに反映されるという考え方は、藤子A先生が大事にされていた信条なのかもしれませんね。もしかしたら、かつて編集の方から似たような指摘を受けたのかもしれません。

ピンチという名のチャンス?

これまでの人生で熊井は、絡まれたり、脅威を目にしたりした際には一方的に被害を受けたり、また傍観したりしてきました。しかし、そんな熊井に強盗が自分のいる方に逃げてくるという事態が発生します。正にピンチという名のチャンスです。

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強盗を前にした熊井(風貌が変わっていますが、喪黒さんのアドバイスを取り入れた結果です)の頭に、喪黒さんの言葉、雑誌担当者の言葉が過ぎります。そして……!

特に不幸なお客様・熊井

この作品に登場する熊井は笑ゥせぇるすまんの作品の中でもかなり不幸な方に入ると思います。ラストで熊井は人生設計が狂うほどの被害を受けているのに対し、一方で彼にはそもそも喪黒さんからほとんど恩恵がもたらされていないのです。

奇抜な服装やちょっとしたアドバイスは喪黒さんから貰った熊井ですが、それで良かった事といえば、ちょっと雑誌担当者が軽口混じりに褒めてくれた程度。むしろ、奇抜な服装に身を包んだばっかりにチンピラから目をつけられ、タカられた上に所持金が無かったという事で殴られるなど、被害の方が大きいくらいです。

藤子A先生は、笑ゥせぇるすまんこと喪黒福造について、メフィストフェレスをモチーフにデザインしたと公言しています。そして、メフィストフェレスといえば、魂と引き換えにその者の望みを叶える存在として広く知られています。

喪黒さんもまたメフィストフェレス同様、何らかの力やメリットをお客様にもたらした上で彼らを翻弄するのが普段の姿です。これまでのお客様も、大概は不幸な目に遭うものの、そこに至る過程で一時的ながら何らかの幸福感・解放感・期待感などを得ています。

しかし、熊井だけは幾ばくかの賛辞という些少なメリットのみをもって、魂を奪われてしまうんですよね……。その点が非常に哀れに思えてなりません。

以上、『笑ゥせぇるすまん』第7話の感想でした。

笑ゥせぇるすまん(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

笑ゥせぇるすまん(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

 
藤子不二雄Aのブラックユーモア(2) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

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